現在の研究概要
地圏環境学研究室では,地球科学・土壌物理学・廃棄物工学をベースに,都市域の環境問題に対処する研究を行っている. その内容は,環境破壊のメカニズム解明とその修復,持続可能な社会の形成に関わる最適技術の開発である. これらの成果は,将来の環境変化を予測し,それに対応し,そして環境の保全に適用可能となる. 最終的には,自然環境と人間活動が調和した地球の創造に資することを目標とする.
地圏環境学研究室では,地球科学・土壌物理学・廃棄物工学をベースに,都市域の環境問題に対処する研究を行っている. その内容は,環境破壊のメカニズム解明とその修復,持続可能な社会の形成に関わる最適技術の開発である. これらの成果は,将来の環境変化を予測し,それに対応し,そして環境の保全に適用可能となる. 最終的には,自然環境と人間活動が調和した地球の創造に資することを目標とする.
現在の研究内容について,その概略を記述する.
ここでは,a)地下内部に捕りこまれた過去の環境変遷を抽出する方法,
b)人為的に地下内部へと信号を射出しその反射信号から地下内部の変化を推定する方法,
の二つの側面から研究開発を試みている.何れの方法も解明対象とする場の時系列的な環境変化の把握に重点をおく.
前者の研究は,おもに内湾・ため池の底質を利用して,環境汚染の時系列的な強度や広がりを推定する試みである.
さらにこの方法から得られた結果を過去の健康被害分布と比較することにより,両者間の相関式を導出する.
そして,この調査方法と相関式を,環境監視が希薄な開発途上国の大気汚染激甚地域に適用し,将来の健康被害予測を試みる.
後者の研究は,地下へ物理的な信号を浸透し,その反射信号を受信・解析することから,内部状態を解明する手法の開発である.
現在は廃棄物最終処分場における環境管理および安定化手法として,比抵抗モニタリングの適用を試みている.
<おもなテーマ>
(1) 地球表層堆積物による産業革命以後の環境変遷の解明
(2) 農業活動による環境汚染メカニズムの解明とその時系列的把握法の開発
(3) ため池底質を利用した越境汚染の時系列的な解明
(4) 廃棄物最終処分場の環境管理と環境リスク評価手法の開発
研究の全体構想
底質の採取風景 (機動性を重視し,ゴムボート・塩ビの採取管を使用)
四日市市内垂坂池の底質における重金属・SCPs・SO42− ・137Csの濃度トレンド
(説明:深度42cm付近が1963年に相当し,深度40cm付近に重金属・SCPs・SO42− の濃度ピークが認められる.ピークの示す層の堆積時期は大気汚染の顕著な時期と一致する)
焼却残渣を満たした土槽による安定化模擬実験風景
[散水2,3,4回目の比抵抗/散水1回目の比抵抗]解析図および散水2,3,4回目における
各セルから排水された浸出水の量と質
(説明:@断面内に変化率の大小が存在することから,層内には洗われ易いゾーンと洗われ難いゾーンが存在する,
Aセル排水の電気伝導度は時系列的減少を示す,B排水量は各セルで相違がある,C排水量の多いゾーンの上方に変化率
の大きいゾーンがある.以上の結果から,洗い出し(透水経路)は非一様であることが解る)
廃棄物埋立層の安定化判断に対して,比抵抗モニタリング手法をどのように利用するか?
(説明:現在廃棄物埋立層の安定化は,おもに浸出水集排水管から採水した試料の水質変化から判断されることが多い.
しかし,埋立層内は透水ゾーンと難透水ゾーンから構成されており,前述の浸出水試料から得られるデータはおもに
透水ゾーンを反映したものである.即ち,前述の浸出水質のモニタリングだけでは層全体を監視しているとはいえない.
そこで,この不十分な点を補うために,難透水ゾーンの発達する上方の地表面に測線を設置し,それに沿って定期的に比抵抗探査を行い,
ゾーン内部の性状変化を比抵抗の時系列的変化から推測する)
地下水汚染の防止対策として,米国では地中に透水性反応壁(PRB)を設置して浄化する技術が普及している.
この考えかたは環境負荷,経済的負担ともに少なく,有効な汚染浄化法の一つと考えられる.
しかし,島弧である日本の地下地質は大陸地塊上にある米国とは大きく異なっていることから,
わが国独自のPRBに対する捉えかたが求められる.
現在は,その手法のベースとなる浄化材料に焦点をあてている.そのコンセプトは「良質の地域土壌を用いた省エネ低コスト型の浄化材料」
である.材料の良否を判断する基準は,@重金属類の吸着固定化が可能か,A有機汚濁成分の吸着分解が可能か,等である.
しかし,自然起源の材料ということで,その浄化能力に対しては不均質性も考慮せねばならない.
そこで本研究では,同一呼称の土壌においても採取地・層準・構成鉱物から分類したのち,それらの吸着能力を評価し,
さらにそれらのデータベース化を試みる.また,各土壌に不足している能力を強化するような物質(リサイクル資源の活用)
を付加することにより,環境浄化資材としての価値の向上を考える.
シラスの分布(鹿児島県,1990)と試料採取地点
シラス試料採取風景
(上図)各シラス試料の有する陽イオン交換容量
(下図)各シラス試料におけるTOC変化量
(説明:CEC試験は,セミミクロSchollenberger法にもとづく.有機汚濁物質吸着能は,
土壌5g+溶液(最終処分場の浸出水-TOC濃度250mg-C/L-,pH8.1)50mlをポリ瓶にいれ24時間浸透したときの,
TOC変化量で示した.何れの結果においても,シラスの吸着能力は産地・採取層準および風化度に影響を受けている)
(左図)含有粘土鉱物を考慮に入れた,シラス試料における全炭素量とCEC値の関係
(右図)含有粘土鉱物を考慮に入れた,シラス試料における全炭素量とTOC変化量の関係
(説明:タイプT 粘土鉱物をほとんど含まない試料
タイプU おもにハロイサイトを含む試料
タイプV ハロイサイトおよびそのほかの粘土鉱物も含む試料
CEC値は含有粘土鉱物に強く影響されているが,含有する腐植物との相関は低い.
一方,有機汚濁物質の吸着は含有する腐植物との相関が高い.)
地球上の金属資源は有限である.よって,消費・廃棄された資源を回収し,
再利用することが持続可能な社会をつくるために重要となる.
本研究では,おもに既存小型家電製品に焦点をあてて,それらの製品の各パーツに使われている
レアメタルの種類と量について,既存資料および分析実験からデータベース化を試みる.
次に,それらの製品の中間処理プロセスを明らかにして,そのプロセスにおける分解パーツおよび
残渣に含まれるメタル含有量を測定する.即ち,レアメタル回収における現在の廃棄物処理フローが
適切であるか否かの検証と新たな提案である.
一方,わが国では1990年以降に廃棄物のリサイクルに関する法制化が進んだ.
しかし,それ以前の廃棄物の大部分は,直接あるいは焼却施設を経由して最終処分場へと運搬され
埋め立てられた.このような背景から,1990年以前に埋め立てられた最終処分場の埋立層には多種の
メタル類が混入しているものと推定される.しかし,埋立層の浸出水には重金属類はほとんど検出されない.
即ち,これらの物質は埋立層の中に封じ込められているものと推測される.
そこで,最終処分場の埋立物を対象として,そのなかに含まれるメタルの種類と量およびそれらの
鉱物的な賦存形態の解明を試み,廃棄物埋立層から回収有望なメタルを特定する.
さらに,廃棄物埋立層内のメタル濃集メカニズムについて鉱床学的な解明を行う.
<おもなテーマ>
(1) 廃棄物処理フローに基づくメタル類最適回収法の検討
(2) 廃棄物埋立層中の重金属・レアメタルの含有量評価とその回収に関する研究
(3) 廃棄物埋立層内のメタル濃集に関する鉱床学的研究
古い最終処分場の内部にはメタル類が残存し,いわゆる熱水鉱床を形成している可能性がある
処分場ボーリングコアの重金属濃度測定結果
特定深度で数種の重金属がピークを示すことがわかる
最終処分場における電気探査結果
金属類が多く存在することが推定されるゾーンが確認された
2011年3月11日に発生した大地震は,M9.0と国内最大規模であり,
東北から関東にかけて未曾有の大災害をもたらした.
そして,この地震で生じた土壌汚染の汚染源は津波で攪乱されたことから,
各種物質の「複合汚染」という実態が浮かび上がっている.
今後,瓦礫や津波堆積物の撤去が進み,市街地の復興計画が整備されるにつれて,
震災に伴う様々な環境汚染問題の出現が危惧される.
それらの汚染メカニズムの解明と浄化対策は復興における重要課題である.
さらに,仮置きされている災害廃棄物や放射能で汚染された廃棄物への対応・処理も今後の大きな問題である.
地圏環境に焦点をあてている当研究室においては,発生が予測される環境問題について,
現地における調査・検討を震災直後から実施してきた.その結果に基づいて,現在は下記の研究を手がけている.
<おもなテーマ>
(1) 仙台平野穀倉地帯復活へ向けた塩害土壌浄化技術の開発
(2) 各種環境汚染浄化のための地産地消型資材の開発
(3) 低濃度の放射能汚染廃棄物を受け入れる最終処分場の安全性に関する検討
(左図)津波被害を受けた地域でのサンプリング風景
津波によって水田に運ばれた自動車が残っている
(右図)農地を覆った津波堆積物
海砂,ヘドロが10cm近く堆積している